生物科学セミナー 第834回 6月27日(水)16:30〜18:00
講演題目:地上部と地下部のバランス:適応的な意味と制御メカニズムの候補 |
講演者名:舘野 正樹(東京大学大学院理学系研究科附属植物園日光分園) |
講演の概要 陸上植物は土壌の窒素条件の違いによって地上部と地下部のバランスを変化させる。窒素が豊富な富栄養な環境では光合成産物を優先的に地上部に分配し、窒素が少ない貧栄養な環境では地下部を優先的に成長させる。直感的には、「窒素が足りないなら根を多く作り、過剰ならシュートを作る」という理解ができるかもしれない。しかし、これは短絡的であり、光合成速度が葉の窒素濃度の飽和関数であること、根の表面積に比例して窒素の吸収がおきることなどの条件がないと、こうした分配の可塑性は適応的ではない。 日光の大学院生だった大曽根陽子は、適応の視点からこの問題に取り組み、 ・ 茎の有無が最適なバランスに与える効果 ・ 樹木の光合成速度が草本よりも低くならざるを得ない理由 などを明らかにした。セミナーではまず、このような生態学的な研究を紹介する。 次に、バランスを変化させるメカニズムに関する研究の現状を、今年行っている研究を含めて紹介する。この研究は「中枢なしに個体を統合するにはどのようにしたらよいか」という一般化された問題に直結している。したがって、少々面倒であり、かつ、やりがいのある研究である。当日は、舘野がこの20年ほどの間にこのテーマについて考えたり行ったりしたことをレジュメにまとめて配布する予定である。 関連文献(適応に関しての) Osone,
Y., and Tateno, M. (2003) Effects of stem fraction on the optimization and
maximum photosynthetic capacity. Functional Ecology 17:627-636. Osone,
Y., and Tateno, M. (2005a) Applicability and limitations of optimal biomass
allocation models: a test of two species from fertile and infertile habitats.
Annals of Botany 95:1211-1220. Osone,
Y., and Tateno, M. (2005b) Nitrogen
absorption by roots as a cause of interspecific variations in leaf nitrogen
concentration and photosynthetic capacity. Functional Ecology 19:460-470. |
理学部生物学科植物学コース