生物科学セミナー  833 620日(水)16301800

 講演題目:イネの胚発生の遺伝的制御〜RNAサイレンシングによる調節機構〜

 講演者名:佐藤 豊(名古屋大学大学院生命農学研究科)

講演の概要

 茎頂分裂組織は胚発生の過程で形成され発芽後は植物の形態形成の主要な場となる。茎頂分裂組織は側生器官への分化を決定づけられた細胞とそれを生み出す未分化な細胞の集団からできている。未分化な細胞は自身を維持し続ける幹細胞のような性質を有している。茎頂分裂組織の形成およびその機能維持機構の解明は植物の形態形成を理解する上で重要な課題である。特に、茎頂分裂組織形成という植物に特有の解析系から幹細胞とそれを維持する場ならびに、そこから生み出される分化した細胞の形成機構に関し、独特な制御機構が明らかになることが期待される。

 私たちの研究グループでは、イネの胚形成過程で茎頂分裂組織の形成およびその機能維持に関連する変異体の解析を行っている。具体的にはイネの胚発生突然変異体shootless (shl)ならびに幼植物体致死突然変異体shoot organization (sho)の解析を行っている。shl変異体は胚発生で茎頂分裂組織を特異的に欠損する変異体であり、SHL遺伝子はイネの茎頂分裂組織の形成に必須の因子であると考えられる。sho変異体は葉間期の短縮、葉序の異常、糸状の葉の形成など茎頂分裂組織の構造と機能が異常になっていると考えられる表現型を示す。また、shl変異体の弱い表現型がsho変異体と類似していることから、両変異体が互いに密接に関連していることを示唆している。これまでに、3つのshl遺伝子座ならびに2つのsho遺伝子座が明らかにされており、これらの遺伝子単離を行った結果、SHL/SHO遺伝子はRNA interference (RNAi)の機構に関連したタンパクをコードすることが明らかになった。このことはmicroRNAshort interferingRNAなどの低分子RNAを介した遺伝子発現調節が茎頂分裂組織の構築に機能していることを強く示唆している。

 近年、低分子RNAの制御下にある遺伝子がしばしば発生を制御していることが報告されている1。一方で、低分子RNA産生経路の変異体の表現型は、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシで必ずしも一致しない1,2,3。このことは低分子RNAによる遺伝子発現制御が可塑的であることを示唆している。本発表では、イネのシュート形成およびその維持におけるSHO, SHLタンパクの機能ならびに、低分子RNAを介した遺伝子発現制御の可塑性について考察する。

参考文献

1. Kidner CA, Martienssen RA (2005) Curr. Opin. Plant Biol 8: 38-44.

2. Satoh N, Hong SK, Nishimura A, Matsuoka M, Kitano H, Nagato Y (1999) Development 126: 3629-3636.

3. Nogueira FTS, Madi S, Chitwood DH, Juarez MT, Timmermans MCP (2007) Genes Dev. 21: 750-755.

 

理学部生物学科植物学コース