生物科学セミナー 第830回 5月30日(水)16:30〜18:00
講演題目:染色体ダイナミクス研究−性染色体解析から染色体タンパク質動態研究まで− |
講演者名:松永 幸大(大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻) |
講演の概要 高等真核生物のゲノムはDNAとヒストンからなるクロマチンファイバーとして細胞核中に存在し、体細胞分裂時には高度に凝縮した分裂期染色体を形成する。この染色体形成機構は細胞分裂期のダイナミックな生命現象の一つである。二つの性を持つ真核生物の場合、雌雄のゲノム差は性染色体構造として視覚化される。演者らは未解明であった高等植物の性染色体の機能と特徴を、雌雄異株植物を用いて明らかにした。性染色体連鎖遺伝子の解析より、進化的に大きな構造変換を伴いながら性染色体が形成されることがわかった(1)。 また、染色体局在タンパク質を網羅的に明らかにするために、ヒト子宮頸ガン細胞HeLa細胞を用いて中期染色体の高純度精製法を確立し、染色体プロテオーム解析を行った。質量分析の結果、200種類以上のタンパク質を同定し、高等真核生物で初めて染色体タンパク質のカタログ化に成功した。その局在パターンから染色体コートタンパク質群、染色体表層タンパク質群、染色体構造タンパク質群、染色体繊維状タンパク質群からなる中期染色体4層モデルを提唱した(2,3)。さらにRNAiによる網羅的ノックダウン機能解析を行い、染色体動態に影響が見られる新規の染色体タンパク質を見出した。本講演では、染色体整列に機能する核小体タンパク質ヌクレオリンと染色体接着に機能するミトコンドリアタンパク質PHB2の解析結果を報告したい(4)。 次に、植物の染色体局在タンパク質を探索するために、GEP融合タンパク質を発現させた形質転換シロイヌナズナを蛍光顕微鏡観察し、染色体や核に局在するタンパク質をスクリーニングした。その中の一つはオーロラキナーゼをコードしていた。動態解析の結果、1つのパラログは分裂期紡錘体、もう1つは動原体に局在することが明らかになった。植物オーロラキナーゼは分裂期特異的に検出される翻訳後修飾であるヒストンH3Ser10やSer28のリン酸化も制御する(5)。オーロラキナーゼの特異的阻害剤であるヘスペラジンをタバコBY-2細胞に添加すると、ラギング染色体が生じ微小核が形成される。このことから、植物オーロラキナーゼは姉妹染色体分離に関与すると推察している(6)。 参考文献 (1) Matsunaga, S. (2006) Sex chromosome-linked genes
in plants. Genes Genet. Syst. 81, 219-226. (2) Uchiyama, S. et al. (2005) Proteome analysis of
human metaphase chromosomes. J. Biol. Chem. 280, 16994-17004. (3) Takata, H. et al. (2007)
A comparative proteome analysis of human metaphase chromosomes isolated from
two different cell lines reveals a set of conserved chromosome-associated
proteins. Genes to Cells, 12, 269-284. (4) Ma, N. et al. (2007) Nucleolin
functions in nucleolus formation and chromosome congression.
J. Cell Sci. 121, in press. (5) 松永幸大、栗原大輔、中園幹生(2006)植物におけるヒストン翻訳後修飾研究の幕開け 化学と生物 44(12), 798-799. (6) Kurihara, D. et al.
(2006) Aurora kinase is required for chromosome
segregation in tobacco BY-2 cells. Plant J. 48, 572-580. |
理学部生物学科植物学コース