生物科学セミナー

861  平成201126日(水)16301800

 講演題目:シロイヌナズナ重力屈性における重力受容機構の解析

 講演者名:森田(寺尾)美代(奈良先端科学技術大学院大学)

講演の概要

 芽生えた場所で一生を過ごす植物は、植物は環境の変化を鋭敏に察知し、器官形成や成長の制御を行うことで環境の変化に対応している。屈性と呼ばれる成長運動は、光、重力、水分、接触などの環境刺激の方向を認識した上で起こる、方向性を持つ成長反応である。

 一般に、高等植物の根は重力の方向に、胚軸や茎は重力とは反対の方向に重力屈性を示す。地球上では重力の方向や大きさはほぼ不変であるので、この重力屈性は重力の方向を指標に、器官の傾きを認識して応答する姿勢制御運動といえる。重力に応答する茎や根などの器官では、ある特定の細胞(重力感受細胞)で重力刺激を感知する。その刺激は生化学的なシグナルに変換され、細胞内、また細胞をこえて伝達される。そして器官全体が、一定の方向性を持って屈曲するのである。このように、重力屈性には多くの生物学における普遍的な問題が含まれている。

 私達はこの重力屈性の分子メカニズムを理解する目的で、シロイヌナズナの花茎において重力屈性異常を示す突然変異体を多数単離し、分子遺伝学的•細胞生物学的手法を中心に研究を行ってきた。その過程で、地上部においては内皮細胞が重力感受細胞として機能すること、重力感受細胞中に含まれるアミロプラストと呼ばれるデンプンを多量に蓄積した色素体が、重力方向に移動することが重力感受に重要であることなどを示してきた。また、内皮細胞の体積のほとんどを占める液胞の機能やその動態が、アミロプラストの重力方向への移動に密接に関係することを見出した。また最近、アミロプラスト動態の制御には、アクチン細胞骨格が関与しており、この制御にSGR9が介在する可能性があることが分かってきた。本講演では、重力受容におけるオルガネラ動態制御を中心に紹介する。

 また、これまでの研究から、重力方向の変化という物理的刺激を生化学的信号に変換し、その信号を細胞外に送り出すための「重力受容•伝達システム」は、内皮細胞に内包されると考えられる。重力受容システムとしての内皮細胞を包括的に理解することを目指して、現在逆遺伝学的解析を行っている。この取り組みについても紹介したい。

参考文献

Fukaki, H., Fujisawa, H., & Tasaka, M. (1996). Gravitropic response of inflorescence stems in Arabidopsis thaliana. Plant physiology. 110, 933-943.

Fukaki, H., Wysocka-Diller, J., Kato, T., Fujisawa, H., Benfey, P. N., & Tasaka, M. (1998). Genetic evidence that the endodermis is essential for shoot gravitropism in arabidopsis thaliana. The Plant Journal, 14(4), 425-30.

Tasaka, M., Kato, T., & Fukaki, H. (1999). The endodermis and shoot gravitropism. Trends in Plant Science, 4(3), 103-107.

Morita, M. T., & Tasaka, M. (2004). Gravity sensing and signaling. Current Opinion in Plant Biology, 7(6), 712-8.

Saito, C., Morita, M. T., Kato, T., & Tasaka, M. (2005). Amyloplasts and vacuolar membrane dynamics in the living graviperceptive cell of the arabidopsis inflorescence stem. The Plant Cell, 17(2), 548-58.

理学部生物学科植物学コース