生物科学セミナー

  第858  平成2010月 1日(水)16301800

講演題目:黄色植物専用の青色光受容体オーレオクロム

 講演者名: 片岡博尚(東北大学大学院生命科学研究科分子生命科学専攻)

講演の概要

私たちはフシナシミドロ(Vaucheria)から,新しいタイプの青色光(BL)受容体オーレオクロムを発見した.フシナシミドロは疎らに分岐する糸状の多核細胞で,黄色植物(ストラメノパイル界)-黄緑色藻綱(Xanthophyceae)に属している.私は1975年に縦半照明法を開発してこの藻の正光屈性の作用スペクトルを得,また,BLによる光形態形成反応,すなわち,枝(成長点)の誘導形成を発見した.今回は,1) この新発見のBL受容体オーレオクロムがフシナシミドロの上述の光形態形成反応の光受容体であること,そして,2) オーレオクロムは,フシナシミドロだけでなく,褐藻や,ケイ藻などを含む大系統群,黄色植物だけに共通に保存されていることをお話ししたい.

1) 2000年頃から,フシナシミドロ(V.frigida)の光形態形成反応の細胞内機構の解析を始め,2003年にはN末端側に転写因子bZIPドメイン1個と,C末端側にLOV(Light-Oxygen-Voltage)ドメインを1個もつ蛋白をコードする,2つのcDNAを単離した.私たちはこの蛋白をAUREOCHROMEAUREO1AUREO2と略)と名づけた.AUREO1BLを吸収すると一時的にFMNと共有結合し,何らかの構造変化を経て標的配列TGACGTと結合する,青色光で活性化する転写因子であった.RNAi実験から,オーレオクロムは33年前に発見した分枝形成反応のための光受容体であると確定した. 

2) では,オーレオクロムはどこに起源し,どう分布し,どう進化したのだろう?黄緑色藻は褐藻と近縁である.そこで,光極性誘導で有名なヒバマタ(Fucus)受精卵のmRNAからオーレオクロム遺伝子の単離を試み,2種のオルソログを単離した.オーレオクロムは黄金色藻やラフィド藻などのmRNAからも単離できた.さらに 2種のケイ藻ゲノムにもBLAST検索により3種のオーレオクロムを検出した.しかし,葉緑体をもたないストラメノパイルである卵菌類をはじめ,クリプト藻,ハプト藻,緑色植物などの他の系統群にはなかった.一方,緑色植物の主要なBL受容体フォトトロピンは緑色植物以外に存在しない.オーレオクロムは黄色植物専用のBL 受容体と考えられる. LOVドメインはバクテリア(ELI_04755など)や菌類(WC1など)でも光受容体として働いている.大系統群ごとに異なるタイプのLOVをもつBL受容体が働いていることは真核生物の進化を考える上でも大変興味深い.オーレオクロムがケイ藻や褐藻の生活環の中でどのような働きをしているかは今後の課題である.

参考文献

Kataoka, H 1975b. Plant Cell Physiol. 16: 439-448.

Takahashi,F, Hishinuma,T, Kataoka,H (2001) Plant Cell Physiol. 42: 274-285.

Takahashi,F, Yamaguchi,K, Hishinuma,T, Kataoka,H (2003) J. Plant Res. 116: 381-388.

Takahashi,F, Yamagata, D, Ishikawa M et al.(2007) PNAS 104: 19625-19630.

片岡博尚(1981) 下等緑色植物の光屈性 In 光運動反応.古谷雅樹編.pp.147-176.共立出版.

片岡博尚(2001) 光走性と光屈性.In 朝倉植物生理学講座5.環境応答.寺島一郎編.pp.17-39,朝倉書店.

片岡博尚,高橋文雄,石川美恵(2007)遺伝 11月号 61: 20-22, NTS 出版.

 

理学部生物学科植物学コース