生物科学セミナー  856 72日(水)16301800

講演題目:富士山火山荒原に暮らす菌根菌の分子生態学

 講演者名:宝月 岱造(東京大学農学生命科学研究科森林科学専攻)

 

講演の概要

 

 1707年の宝永大噴火以来300年間、富士山の南東斜面では、様々な植物がそれぞれの生態的特性に従って繁殖を繰り返し、典型的な一次遷移を進行させている。現在、標高千数百メートル以上のスコリア荒原では、イタドリを中心とする草本植生パッチが点在しているが、やや低い標高では、草本パッチの中にミヤマヤナギやシモツケといった木本も見られる。また、更に低いところでは、既により多くの木本種が定着している。これらの木本植物の分布が、少しずつ斜面をはい上がるように広がっていき、何百年も経つと、この辺り一帯は森林へと遷移していくのだろう。

 さて、わずかずつながらも発達している植生パッチを、改めて目を凝らして見てみると、様々なタイプのキノコが大量に発生していることに気がつく。これらの菌類は、こんなところで何か大事なことをしているのだろうか?しているとすれば、一体何をしているのだろうか?その疑問に答えるべく、私たちは、分子生態学の技術を応用して、パッチにひそむ菌類の研究を始めることにした。その結果、富士山の厳しい環境の中に置かれた植物が、実は一人で生きているわけではなく、私たちには見えないところで菌類の助けを借りて生き抜いていることが次第に解ってきた。

 今回は私たちが行った研究を中心に、一次遷移での菌類の役割について紹介したい。

 

 

参考文献

 

1. 高木 勇夫・丸田 恵美子(1996)「自然環境とエコロジー」 日科技連出版社

2. 種生物学会編「森の分子生態学」文一総合出版

3. 宝月岱造 (1998) 森林生態系の隠れた役者−樹木と外生菌根菌の共生系−。蛋白質核酸酵素437):1246-1253

 

理学部生物学科植物学コース