生物科学セミナー 第848回 4月16日(水)16:30〜18:00
講演題目:転写制御から見たフラボノイド生合成の進化 |
講演者名:作田 正明 (お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科ライフサイエンス専攻) |
講演の概要 植物は多種多様な二次代謝産物を合成・蓄積するが、その植物界における分布には特異性がみられる。このことから、古くより二次代謝産物は化学分類の形質として利用されている。高等植物の花色や紅葉にみられる赤色は、そのほとんどがフラボノイドの一種であるアントシアニンにより発色されているのに対し、ナデシコ科、ザクロソウ科を除くナデシコ目ではアントシアニンは存在せず、その赤色はベタシアニンにより発色されている。植物界におけるアントシアニンとベタシアニンの排他的な分布は、古くより知られ、注目されてきたが、この事実に対する「なぜ」という問いに対してはまったく答えがなく、ミステリーとさえいわれている。 このような背景から、私達は、ナデシコ目植物のフラボノイド合成系に注目し、高等植物に普遍的に存在するアントシアニンが、ナデシコ目植物ではなぜ合成されないのかという問題について、分子生物学的な側面から解析を試みている。フラボノイド生合成系においてアントシアニン合成に特異的な反応を触媒するDFR、ANSの両酵素に注目し、解析を試みた結果、ナデシコ目植物においても、酵素としての機能を保持したDFR、ANSが存在し、これらは種子に特異的に発現していることが明らかとなった。このことは、ナデシコ目植物でアントシアニンが合成されないのは、これら遺伝子の器官・組織特異的な転写制御に起因したものである可能性を示唆しており、アントシアニン合成と種子におけるプロアントシアニジン合成の代謝進化という観点から、興味深い事実と考えられる。本セミナーでは、最近の知見を中心に、転写制御という視点から、フラボノイド生合成の進化について考察する。
参考文献 1. Winkel-Shirley B. (2001) Flavonoid biosynthesis. A colorful model for genetics, biochemistry, cell biology, and biotechnology Plant Physiology 126, 485-493. 2. Shimada, S., Takahashi, K., Sato, Y. and Sakuta, M. (2004) Dihydroflavonol 4-reductase cDNA from non-anthocyanin-producing species in the Caryophyllales Plant Cell Physiol. 45:1290-1298. 3. Shimada, S., Inoue, T.Y. and Sakuta, M. (2005) Anthocyanidin synthase in non-anthocyanin- producing Caryophyllales species Plant J. 44: 950-959. 4. Shimada, S., Otsuki, H. and Sakuta, M. (2007) Transcriptional control of anthocyanin biosynthetic genes in the Caryophyllales J Exp Bot. 58: 957-967. 5. Yoshida, K., Iwasaka, R., Kaneko, T., Sato, S., Tabata S. and Sakuta, M. (2008) Functional differentiation of Lotus japonicus TT2s, R2R3-Myb transcription factors comprising a multigene family Plant Cell Physiol. 49: 157-169.
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理学部生物学科植物学コース