ミトコンドリアDNA−加齢変化および病気との関係

日時:7月13日(金)16:30−18:00
場所:理学部2号館402号室
演題:ミトコンドリアDNA−加齢変化および病気との関係
講演者:針原伸二先生(人類生物学・遺伝学研究室)
講座区分:人類学談話会


要旨
 ヒト・ミトコンドリアDNAの3243番目の塩基がGからAに換わる変異(mtDNA A3242G)は,加齢変化として蓄積していく現象が認められているほか、いくつかのミ トコンドリア病と称される病気の主要な原因ともなっている。加齢にともなう組織の 変異の蓄積状況を調べるとともに,糖尿病患者の症例について変異率と病態との関連 を考察した。心室心筋では加齢変化とともに変異が蓄積する傾向がみられ,酸化スト レスや細胞寿命の長さが変異の原因とも考えられる。一方,食道上皮では変異の蓄積 傾向が見られなかった。脳では,女性においてのみ,白質における mtDNA A3243G の 平均値が灰白質における変異率の平均よりも有意に高かったが,加齢変化について は,白質・灰白質ともに有意な傾向は認められなかった。糖尿病患者については,2 例で臓器における変異が非常に高く検出された。うち1例の患者は臨床および病理学 的に非常に重篤かつ典型的な糖尿病の症状を示しており,mtDNA A3243G 変異による ミトコンドリア糖尿病を患っていたと考えられた。この患者では臓器ごとに変異率が 大きく異なる点も注目しなければならないしかし,もう1例の患者はどの組織でも高 い変異率を示したにも関わらず,生前の糖尿病の症状は軽微であり,ミトコンドリア 糖尿病の病態は非常に多様であることが示唆された。

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