「かたち」を数値化する:幾何学的形態測定学のスピリット

日時:5月11日(金)16:30−18:00
場所:理学部2号館402号室
演題:】「かたち」を数値化する:幾何学的形態測定学のスピリット
講演者:三中信宏(農業環境技術研究所/東大・院・農学生命科学研究科)
講座区分:人類学談話会
概要:生物の「かたち」を定量的に解析する手法として,幾何学的形態測定学 (geometric morphometrics)というツールが最近10年余りの間に確立されてきた. この幾何学的形態測定学はもともとは自然人類学における骨格計測の手法として 開発されてきたが,現在では進化生物学や生態学そして発生生物学の分野に幅広 く適用されつつある.「かたち」の幾何学的情報は,たとえ視覚的には単純に見 えても,数値的には複雑な多変量データとして記述される必要がある. 「かたち」 から抽出された多変量データに対して, 従来的な線形統計学的手法をそのまま適 用しようとした1960〜70年代の多変量形態測定学は批判されることになった. 「かたち」のもつ幾何学的情報(サイズとシェイプ)をすくいあげるためには, 形態測定学の方法論そのものが幾何学的であるべきだとの認識が広まってきた. 「かたち」をめぐる統計学と幾何学との共同作業が1980年代にわたって続けられ, その結果,後に「形態測定学の革命」と呼ばれるようになる 形態測定学の変革期 を1990年代に迎えることになる.今回の講演では,まずはじめに幾何学的形態測 定学が目指す「かたちの定量化」とは何かを論じる.そして,この分野が,生物 学の知見を踏まえた上で,数学(とくに幾何学と多様体論)と統計学(とくに多 変量解析と非線形統計学)の境界領域に位置することを示す.最後に, 形態測定 学と系統推定論との関わりに触れ,かたちの系統発生を復元するという問題に言 及する。