魚類と霊長類の多様な色覚進化

日時:5月9日(金)16:30−18:00
場所:理学部2号館402号室
演題:魚類と霊長類の多様な色覚進化

講演者: 河村正二先生(新領域 生物学科)
講座区分:人類学談話会


要旨: 
異なる波長の光を違うと感じる感覚(色覚)は動物により大きく異なってい る。同じ虹を見ても4色型色覚の鳥なら3色型色覚のヒトよりずっと多くの色 を見ることができるだろう。近年、様々な動物において色覚を担う光センサー (錐体視物質)の解明が進み、動物によりその数や種類や発現パターンが異な ることがわかってきた。明度が絶え間なく変動する浅瀬の水環境と森林環境は 色覚進化の揺籃地であり、特に魚類と霊長類が顕著な色覚多様性を示すことと 符合する。例えば、魚類のゼブラフィッシュは8種類もの錐体視物質をもち、 網膜の領域により発現する視物質構成を違えることで、視線の方向によって色 覚を違えており、我々ヒトよりはるかに微妙な色調を認識できると考えられ る。これを実現するための視物質オプシン遺伝子の制御メカニズムもわかって きた。また、中南米に生息する新世界ザルには1つの種内に6種類の異なる色 覚型が存在するものが知られており、生息環境と獲得色覚との密接な関連もわ かってきている。このように、色覚能力について近年多くの大変興味深い研究 成果が蓄積してきている。ヒトの色覚は霊長類の森林適応の歴史と密接に関係 しているはずであり、高度で多様な魚類色覚は脊椎動物の色覚進化を考えるう えで重要なモデルとなる。我々は魚類と霊長類を主な研究対象として、環境に 適応した多様な色覚の進化の解明に取り組んでいる。本セミナーでは魚類と霊 長類の視物質多様性とその生態学的意味についての最近の知見を紹介する。

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