動物科学特論I

307Zoological Conference

 

日時: 12月13日(水)16:00-17:00

演者: 升井 伸治 博士(国立国際医療センター研究所・細胞組織再生医学研究部)

演題: ES細胞の未分化性を司る分子機構

 

 胚性幹細胞(ES細胞)は発生学上の道具としてのみならず、近い将来において再生医療などのバイオテクノロジー分野でも非常に重要な役割を果たすようになるとして注目を集めている。その未分化性を維持する分子機構については、ノックアウトマウスや網羅的解析手法によって精力的に研究されてきたが、転写因子のネットワーク構造についての直接的な解析はなされていなかった。

マウスES細胞における未分化性維持に必須の因子として、転写因子Oct3/4が知られている。Oct3/4の発現はマウス発生過程を通じて未分化細胞に限定されており、そのノックアウトマウスでは胚盤胞内に未分化細胞集団を形成できない。一方Oct3/4による下流遺伝子群の転写制御にはOct3/4と協同して働く共因子(コファクター)が必要であり、そのうちのひとつとしてSox2が同定されている。インビトロの解析では、Sox2はOct3/4と協調し、Oct-Sox結合配列をもつエンハンサー(以下、Oct-Soxエンハンサー)を介して多くの未分化特異的遺伝子の発現を制御しうることが報告されていた。さらに、ノックアウトマウスでの解析からSox2は初期胚における未分化細胞集団の形成に必須であることがわかっていた。以上の知見から、Oct3/4とSox2がOct-Soxエンハンサーを介して未分化性維持に必須な一群の下流遺伝子を制御することが、未分化性維持機構の本質であると信じられてきた。

この概念の妥当性を検証すべく、私は新規に樹立した誘導的Sox2ノックアウトES細胞を用いて一連の解析を行った。今回は、その解析結果から明らかとなった未分化性を司る転写因子ネットワークの意外な構造を紹介する。

 

場所:理学部2号館 第1講義室(201号室)

 

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・動物科学大講座

  (TEL: 03-5841-4018) 細胞生理化学研究室