第1105回生物科学セミナーを開催します(7/1 (金) 17:00~18:30 3号館412講義室)

第1105回生物科学セミナー

日時:7 月1 日(金)17:00-18:30

演者:三浦 正幸 教授

   東京大学薬学系研究科遺伝学教室 

演題:メチオニン代謝制御による生体恒常性維持機構

 必須アミノ酸であるメチオニンの代謝経路の産物Sアデノシルメチオニン(SAM)は、生体のメチル化反応、ポリアミン合成、硫黄の転移経路といった様々なシグナル調節機能を有している。哺乳類では全メチオニン代謝の50%が肝臓でおこり、SAMを用いるメチル化反応の実に85%が肝臓でおこるとされる。よって肝臓は生体でのSAMデマンドを監視して調節する役割があると予想される。我々は、組織傷害に対する全身性の応答に興味を持ち遺伝学的な研究に優れたショウジョウバエを用いた研究を行っている。脂肪体は哺乳類の肝臓や白色脂肪組織に相当する組織である。脂肪体は生体に生じた様々な組織傷害に応答してSAM代謝を変化させ、生体のエネルギー代謝や傷害組織の修復・再生に積極的に関わることが明らかになってきた。
 一方で、メチオニン代謝は生体組織傷害によって脂肪組織で変化するばかりではない。外部環境、特に飢餓に対して直接影響を受ける腸は、メチオニンの欠乏に対して様々な適応的応答を示す。ショウジョウバエの遺伝学的な研究によって飢餓時における腸幹細胞系の恒常性維持にSAMが重要な役割を果たすことも明らかになってきた。本セミナーではメチオニン代謝による生体の恒常性維持機構に関して議論したい。

 参考文献
Kashio, S., et al.: Tissue non-autonomous effects of fat body methionine metabolism on imaginal disc repair in Drosophila.  PNAS 113, 1835-1840, 2016.
Obata, F., and Miura, M.: Enhancing S-adenosyl-methionine catabolism extends Drosophila lifespan.  Nature Comm. 6, 8332, 2015
Obata, F., et al.: Necrosis-driven systemic immune response alters SAM metabolism through the FOXO-GNMT axis.  Cell Rep. 7, 821-833, 2014
小幡史明、三浦正幸:メチオニン代謝と飢餓応答、The Lipid 26, 61-66, 2015

場所:理学部 3号館 412号室

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・黒田研究室