生物化学科 学科長ご挨拶

 
生物化学科新入生の皆様、進学おめでとうございます。このおめでたい時期に、桜も満開で、本来なら心機一転するこの時期に、新入生歓迎会もできず、新たな気持ちで皆さんと顔をつき合わせて講義や実習もすることもかなわず、教員一同、歯がゆい気持ちでいっぱいです。東京での新型コロナウイルスの新たな感染者が日を追う毎に増加し、感染爆発に近い状況かと思います。これらの状況を受けて東京大学での警戒レベルが引き上げられ、関係者以外立ち入り禁止になりました。アメリカの中心都市、ニューヨークでは医療崩壊が起き、20代、30代の健康な若者が次々と亡くなっています。また、特に科学技術先進国と言われてきた西欧、アメリカで感染者、死亡者が急増しています。まだまだ科学では未解明なことがたくさんある証拠です。最近の論文では、COVID-19は自然免疫をコントロールし、サイトカインストーム(白血球がウイルスを攻撃するのろしとなるサイトカインに体が過剰に反応してしまう)を起こすことにより、容態が急変すると言われています。一方で、他の論文では、特にロシア・日本株のBCGを幼少期に接種した国(日本、ロシア、東欧など)では、自然免疫の訓練がされており、COVID-19による重症化のリスクが低いとも言われています。いずれにせよ、未だメカニズムが完全に解明されていない、より原始的な自然免疫が、このウイルス疾患の鍵を握ることが示唆されています。しかしながら、東京が3週間前のニューヨークと同様の感染状況であることを考えると、いつ感染爆発、医療崩壊が起きてもおかしくない状況です。このような状況では、皆さん1人1人が勇気をもって責任を持って自宅待機、活動の自粛を行うことで、日本は救われるのです(ウイルスは自分では動かないのです)。生物化学科は、生物学科と化学科から教員の枠を出し合って62年前に作られた学科です。これまで多くの大学に教授を輩出してきた名門の学科です。我々は、生命に普遍的なメカニズムを分子、原子のレベルまで掘り下げて、完全解明を目指します。そのことは、真の意味での技術革新、社会への貢献をもたらします。例えば、今回の新型ウイルスのパンデミックから世界を救えるのは、我々基礎研究者なのかもしれません。パンデミックが終息したら、我々と皆さんの英知を持って、ともに最先端の基礎研究を推進し、日本を、世界を救いましょう。皆さんと直に研究ができる日を楽しみにしています。

令和2年4月5日
東京大学・理学部・生物化学科 学科長 濡木 理